友達から恋人になると 何か大切なものを失くした気持ちになる

望んだ事なのに 不安定になって

だからお互いに嫌気がさすんだ





恋愛過渡期


2000年11月。忘れられない恋をした。
私の前にはいつもと変わらない彼が立っていた。
脳裏にはこの2ヶ月間が、ただただ美化されて映っていた。

彼、古木春人とは、小学からの顔見知りだ。
初めて言葉を交わしたのは、それから6年後、1999年4月。
中学に入学してすぐある、毎年恒例のキャンプで同じ班になってから、あたし達はすぐに意気投合した。
周りの皆から「学校一仲の良い生徒」と認知されるくらいの“友達”になった。


その時のあたし達は、とにかく笑いあっていた。
1つ年上だった彼は、いつも隣の教室からやってきて、必ずといっていいほどあたしの隣に座った。
まるで、家族みたいに。
どんな時も一緒だった気がする。
CDを貸しあったり、お互い好きなマンガの話を延々したり。


でも、男女の友情は長くは続かない。
それはもう、誰もが知っている。
あたしだって知っていた。
それを承知で彼と一緒にいた。

案の定、2ヶ月も経たない内にあたしは彼を好きになってた。
彼があたしを好いていてくれた事は知っていたし、あたしもそれで満足だった。
彼の事を好きな女の子が他にいても、気にすることなんてなかった。
いつも、彼は傍にいてくれた。

そんな関係が、1年間続いた――。




友達から恋人へ。
この道を歩くのはそんなに難しいことではない。
辿り着くかどうかは別にして、その道を選ぶのはそんなに難しい事ではないんだ。
どちらかが、一言伝えればいいだけだ。「好き」という一言。



あたし達の場合、先に口火を切ったのは、なんと彼だった。
“なんと”という言葉がつくのにはそれなりに理由がある。
彼は、とにかく女の子によく絡んでいる、いわゆる「女たらし」だったのだ。しかも、「さわやか系女たらし」。
全校生徒50人ほどの弱小中学校だったから、誰もが彼を知っていたし、なぜか人気もあった。
これが一つ目。

そしてもう一つ。
彼には、好きな人がいたってこと。
直接口に出しているところを聞いたわけじゃない。あたしの、女のカンだ。
あたしと同じ一歳下の、かわいくて頭の良い女の子、沙央理。
彼女は、これまた少女漫画に出てきそうな、高飛車なプライドの高い女の子だった。
しかも、彼女は彼に片思い。

あたしと彼女は、どうも相性が悪かった。
表面では仲良くし、裏側でお互いの悪口を言うような、デリケートな関係だった。



それでも、あたしは彼の言葉が嬉しかった。
今まで、ふざけ合うだけの友達だとラインを引いてきたあたしは、どこかで彼を独り占めしたいと思っていたんだ。
手紙で書いてくれたこと。
“本命は、An interesting girl&little girl.YOUですた。”
相変わらずふざけた文章。でも、恥ずかしがり屋の彼はきっと、一生懸命気持ちを伝えてくれたに違いない。
あたしも彼に手紙を返した。ずっと好きでした、と。


そして、このことが忘れられない恋の始まりとなる。

2000年、9月14日のこと。



あたし達は恋人になった。
幸せな時間を過ごせる!・・・と思っていたのだけど、期待を裏切るように全く逆の展開へと変わっていった。
若さ故、恥ずかしさ故、会話も弾まない。
心のどこかに引っかかる、「彼の好きな子」の存在。

当然、“友達”という肩書きがなくなっただけではすまなかった。
前のように過ごせればよかったのだけど、経験不足のあたしたちにはなす術がわからなかった。
2人の会話は、日に日に少なくなっていった。


文化祭、休み時間、登下校、電話。
あたし達は無言の時間を過ごした。


彼は言った。
「こうやって一緒にいると楽しい」
あたしは、「そう?」と答えた。

信じられなかった訳じゃない。
でも、これ以上彼に近づくことができなかった。
何をしても、足掻いて空回りするだけで。


そんな時も、やっぱり沙央理の存在はちらちらと顔を覗かせていた。
彼女は、あたし達が付き合っていることを、友達から聞いていたらしい。
それを「知らないフリ」して彼にベッタリ付いて回る彼女を俯瞰で見ながら、あたしは少し考えてみた。

 彼は、どうしてあたしに告白したんだろう?
 今もし別れたら、彼女と付き合うんだろうか?
 その時あたしは、どう思うんだろう?

答えは出なかった。
楽しそうに、嬉しそうに笑って話す2人を横で見ながら、頭が働くわけがない。

泣きたくて、泣きたくて、そして彼の前で笑顔になる自分が憎らしかった。






4年後の今、当時のあたしが一つ出来なかったことを知る。


彼の顔を見ながら
手をつなぎながら
抱き合いながら

「好き」と言えなかった事。


彼の手紙を読み返す。

「いつも手紙で“好き”って書いてくれるのはすごく嬉しいけど、直接聞きたいな」。


彼はいつもあたしを見てくれていたのかもしれない。
考えてみれば、彼はあたしにたくさん、思い出をくれた。
辛いものばかりではなかった。
思い出せば彼の優しさばかり浮かんでくる。


いつか、一緒に帰ったあの日。
別れ際に、彼を待たせて言おうとしたことがあった。
いつも思ってたこと。感謝の言葉。自分の気持ち。
彼は、ちゃんと待ってくれてた。

「まだ帰らないで」
「もう少し待って」

一人前にわがままは言うくせに、5分、10分と時間が過ぎても、どうしても言えなかった。
咽に突っかかって、たった2文字の言葉が言えなかった。


彼はどう思ったんだろう。
結局、先に扉を閉じたのはあたしだったんだ。

あたしたちはとても弱くて、寄りかかって歩いていたのに、先に手を離したのはあたしだったのかな。
知らず知らずのうちに、自分を守っていたんだ。




その後、彼はあたしに最初で最後の嘘をつく。
もう、他の誰かに心が動いてる事を示す嘘だった。

もちろんあたしには彼を問い詰める勇気はなく、ただ、彼の前でいつも通りいるだけで精一杯だった。
今度はあたしが「知らないフリ」をして、彼の傍で、俯いていたんだ。
いつも通り、無言で、一緒に帰る。

頭の中で、この2ヶ月間を思い出す。こみ上げてくるのは、涙、涙だけ。
ぐるぐる回る、あっけなく、ぽっかりと口をあけた日々。

彼の卒業が近づき、中学生活が終わる頃には、“恋人”の関係は自然消滅していた。

あたしは確かに彼を愛していた。
好きで好きで、辛いこともたくさんあった。
嬉しくてたまらないこともあった。
“友達”の時には感じられなかった気持ちを知った。
大きなリスクを伴って“恋人”になったあたしたちは、きっと無駄な時間を過ごしたんじゃない。



「友達から恋人になると、何か大切なものを失くした気持ちになる。
望んだ事なのに不安定になって、・・・だからお互いに嫌気がさすんだ。」


あの時の日記につづられたことば。
この気持ちの裏に流れる、最後まで心に秘めたまま終わったあたしの愛は、きっといつまでも消えない。







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